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ウェブ食事調査システム研究
食べた量はどうやってわかるの?
~Webを活用した食事調査システムの開発と妥当性の検討~
食生活が健康を左右するって聞いたよ。僕は毎日、自分でも数えられないくらいチーズをたくさん食べるけど、病気にならないか、ちょっと心配になっちゃった。。。そもそも食事の測定って簡単にできるものなの?
自分の食生活の把握は、健康に暮らすためにとても重要だよ。それだけでなく、国や自治体が政策を考える際にもでも、食事を正確に測定することは実はとても難しいんだよ。
食事調査にはいろいろな方法がありそれぞれのメリットやデメリットを考慮して、その時に一番適切な方法を選んで調査するんだよ。
やっぱり、食事を把握するって難しいことなんだ....
そうだね。食事調査方法それぞれのメリットやデメリットを紹介するね!
食事記録法(秤量法/目安量法)
摂取した食物を調査対象者が自分で調査票に記入する。重量を測定する場合(秤量法)と、目安量を記入する場合がある(目安量法)。食品成分表を用いて栄養素摂取量を計算する。
メリット
・対象者の記憶に依存しない。
・ていねいに実施できれば精度が高い。
デメリット
・対象者の負担が大きい。
・対象者のやる気や能力に結果が依存しやすい。
・調査期間中の食事が、通常と異なる可能性がある。
・データ整理に手間がかかり、技術を要す る。
・食品成分表の精度に依存する。
24時間思い出し法
前日の食事、又は調査時点からさかのぼって24 時間分の食物摂取を、調査員が対象者に問診する。 フードモデルや写真を使って、目安量を尋ねる。食品成分表を用いて、栄養素摂取量を計算する。
メリット
・対象者の負担は、比較的小さい。
・比較的高い参加率を得られる。
デメリット
・熟練した調査員が必要。
・対象者の記憶に依存する。
・データ整理に時間がかかり、技術を要する。
・食品成分表の精度に依存する。
食物摂取頻度調査法
数十〜百数十項目の食品の摂取頻度を、質問票を用いて尋ねる。その回答を基に、食品成分表を用いて栄養素摂取量を計算する。
メリット
・対象者1人当たりのコストが安い。
・データ処理に要する時間と労力が少ない。
・標準化に長けている。
デメリット
・対象者の漠然とした記憶に依存する。
・得られる結果は質問項目や選択肢に依存する。
・食品成分表の精度に依存する。
・質問票の精度を評価するための、妥当性研究を行う必要がある。
陰膳法
摂取した食物の実物と同じものを、同量集める。食物試料を化学分析して、栄養素摂取量を計算する。
メリット
・対象者の記憶に依存しない。
・食品成分表の精度に依存しない。
デメリット
・対象者の負担が大きい。
・調査期間中の食事が通常と異なる可能性がある。
・実際に摂取した食品のサンプルを全部集められない可能性がある。
・試料の分析に、手間と費用がかかる。
生体指標法:Biomarker
血液、尿、毛髪、皮下脂肪などの生体試料を採取して、化学分析する。
メリット
・対象者の記憶に依存しない。
・食品成分表の精度に依存しない。
デメリット
・試料の分析に、手間と費用がかかる。
・試料採取時の条件(空腹か否かなど)の影響を受ける場合がある。摂取量以外の要因(代謝・吸収、喫煙・飲酒など)の影響を受ける場合がある。
参考文献
『日本人の食事摂取基準(2020年度版)』
”食事摂取状況に関する調査法のまとめ”から引用
日本では秤量による食事記録法が国民健康・栄養調査をはじめとする多くの研究で用いられている。一方で、欧米は24時間思い出し法が多く用いられているよ。食事記録法はていねいに実施できれば精度は高いが、対象者や面接者の負担が大きいため習慣的な摂取量の把握が難しいことが課題だ。
例えばカレーライスなら、「にんじん」「玉ねぎ」「じゃがいも」「豚肉」などの材料をひとつひとつ記録しなきゃならない。日本人の食事は特に、食材を組み合わせた料理を食べる機会が欧米に比べて多いので、とてもたいへんなんだ。
そうか。僕はチーズを上からたっぷりかけるから、それも追加しなきゃだな。カレーライスひとつとっても、お肉の種類や、何の野菜を使用しているか各家庭やメーカーによって異なるもんね!
でも「カレーライス」を料理の単位として調べることができたら、だいぶ楽になるよね。そこで、私たちは日本人のための食事調査方法の検討を行い、さらにウェブ上で食事調査を実施できるシステムの開発の検討や実用に向けた研究を実施したよ。
1.料理データベースを作ろう
~料理データベースの構築~
まずは、様々な料理がどんな食品で成り立っているか、料理のデータベースを作成したよ。
<データベース作成までの流れ>
料理データベースの完成
各料理を構成する食品に、日本食品標準成分表を紐づけて、料理ごとの栄養素等成分値データベース(料理データベース)を作成
料理データの統合
(代表値の算出)
料理コードごとに、構成食品の種類と量の代表値(中央値)を決定する。
料理毎に食品構成を整理
主材料・副材料、調理方法、料理名で整理して、料理コードを付与
データの収集
疫学調査で収集された秤量食事記録法の既存データを活用
得られたデータを統合して、代表的なカレーの材料と重量を算出するんだね!
データベースが完成したら、実際の食事調査で推定できるか、妥当性の検討をする必要があるよ。
2.作成したデータベースから食事の摂取量を調べよう
~料理単位法食事調査の検討~
まずは、高地先生の研究成果を紹介するよ!
作成したデータベースを用いて料理単位法による摂取量推定と実際の食事記録データによる実測値からの摂取量を比較し、妥当性を検証したよ。
日本人を対象とした料理単位の成分表によって計算した摂取量の妥当性
(開発集団と同一地域:農村部)
結果からわかること
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料理名と喫食サイズから栄養素等摂取量や食品群を推定することが可能だった
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料理データベースは料理数が多い方がより信頼性を得ることが可能である(標本サンプル75人、延べ1500料理、480種類程度確保できれば相対評価は可能)
・引用文献はこちらから
・高地先生の研究室HPはこちらから
開発集団と同一地域で妥当性が確認されたデータベースは農村部の集団だったので、都市部の集団でも実用可能か妥当性を検討したよ。
日本人を対象とした料理単位の成分表によって計算した摂取量の妥当性
(開発集団と同一地域:都市部)
結果からわかること
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他地域で開発されたデータベースでも88%は料理名で充当が可能だった
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「近似の料理に充当した」のは外食や果物などで、地域間での外食頻度の差の影響が考えられる
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料理単位法で推定した食品群の一部で顕著な過大評価、栄養素摂取量の多くで過少評価されやすい傾向ではあった
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同一地域と比較して相関係数は下がる傾向を示したが、料理単位法の有用性と他集団への適用は可能だった
・引用文献はこちらから
料理データベースを用いて料理単位法での推定でも食事の評価は実施できることが分かったんだね!
料理データベースの実用性と妥当性が確認できたので、さらに多くの食事データを集めて料理データベースを再構築したよ。
食事データの収集
延べ24万食 料理数:約4000料理
疫学調査で収集された秤量食事記録法から得られたデータ
日本人中高年男女を中心に多地域に及ぶ
わ~!!!!
沢山の食事データだね
3.ウェブ食事調査システムを開発しよう
~料理単位法を活用した24時間思い出し法のウェブシステム開発~
妥当性が確認さが取れた料理単位法を活用して食事調査をウェブ上で実施できるシステムを開発したよ。
通称AWARDJP!
わぁ~!
インターネットを使って食事調査できるってことか~
どうやって操作するの?
システムにログインすると、入力画面が出てくるよ!
システムの案内に従って入力すると1日の食事を登録・修正が可能だよ
最終確認をして入力を完了すると入力した日の食事の栄養素結果が表示される仕組み*になっているよ。
*現在は調査の関係上、栄養素結果は即時に表示されていません。
*調査用に開発したシステムのため、商用一般化して使用できるように公開はしていません。
食事調査Webシステム(AWARDJP)の流れ
ログイン
過去24時間の飲食した時間、場所、誰と召し上がったか入力
食事時間入力
各食事区分毎に料理名を検索
該当する料理が無い場合、近しい料理名を登録
料理登録
召し上がった料理の量は写真と比べて何倍か選択
詳細に修正したい場合、修正が可能
料理ポーション登録
(食品構成の編集)
料理登録の確認
最終確認
おお~!
ログインして前日の食事を思い出して入力するんだね
記録するわけじゃないから簡単そうだね。
AWARDJPは料理データベースと前日の食事思い出して調査する24時間思出し法とインターネットを使用したWebベースの新しい食事調査方法だよ。
AWARDJPとは
よく用いられる食事記録法の調査より、対象者さんの負担が比較的少ないのが特徴だといえるね!
でも、このシステムが本当に一般の方が簡単に操作できて比較的に負担が少ない仕様なのか等の実用性は検証できていないよ。
そこで、このシステムの実用性を検討するため、40,50歳代を中心とする一般の方に自分で入力するウェブ食事調査と調査員が代理にで入力する電話食事調査をしてもらい、AWARDJPを用いた食事評価の実用化に向けた研究を実施されたよ。
対象者自身で入力
調査員が代理で入力
食事調査システムの開発と実用化へ向けたパイロット研究
-料理ベース食事調査ウェブシステム-
ウェブでの食事調査の簡便性
電話での食事調査の簡便性
食生活評価システムの開発と実用化へ向けたパイロット研究-料理ベース食事調査ウェブシステム-(n=22)
大内他,家政学研究(奈良) 2017: 63(2);13-23 改変
結果からわかること
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ウェブ食事調査は難しいと感じた方が多く(78.2%)、電話食事調査は簡単と感じた方が多かった(77.3%)
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ウェブ食事調査は料理名選択時の料理検索方法や料理詳細入力時の追加食材の重量編集が分かりにくいと感じた方が多くいた
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電話食事調査は料理詳細入力画面で調査員からの食べた量の説明が分かりにくいと感じた方が多くいた
自分で入力するウェブ食事調査より、電話調査の方が簡単だと感じた方が多かったんだね!
自身で調理することや食事を準備する事が少ない人やそもそもPC操作が苦手な方だと入力するのが大変だったのかもしれないね。
そうかもしれないね。
一方で「もし、AWARDJPを使った食事調査を実施する場合、1年間で何回までなら参加できるか?」という質問をした際に、ウェブ食事調査の方が実施回数は多い結果だったんだ。
AWARDJPを使った食事調査を実施する場合
1年間で何回までなら参加できるか?
ウェブでの食事調査 参加可能回数
平均6.6回/年※
電話での食事調査 参加可能回数
平均5.0回/年※
※調査方法間による参加可能回数の平均値に統計学的有意差はみられなかった
食生活評価システムの開発と実用化へ向けたパイロット研究-料理ベース食事調査ウェブシステム-(n=22)
大内他,家政学研究(奈良) 2017: 63(2);13-23 改変
また、電話調査の方が好ましいと回答した方の中には「ウェブのシステムの改善または入力方法の説明があればウェブでも良い」と回答された方もいたよ。
調査方法の好み
<理由>
・回答が楽だった
・ウェブ食事調査が難しいため
・ウェブの改善/操作説明があればウェブでも良い
電話食事調査が好き
食生活評価システムの開発と実用化へ向けたパイロット研究-料理ベース食事調査ウェブシステム-(n=22)
大内他,家政学研究(奈良) 2017: 63(2);13-23 改変
<理由>
・好きな時間にできる
・細かい内容を自分で変更できる
ウェブ食事調査が好き
どちらも同じくらい
<理由>
・ウェブは検索に時間がかかり、電話は入力を待つのに時間がかかるため
ウェブ食事調査は好きな時間にできるという簡便さもメリットのひとつだよね!今後実装する場合の検討課題がいろいろ見つかったんだね。
このシステムの実用性を検討するためのもうひとつの研究として、日本の大規模な疫学研究の集団でも実用できるのか検討したよ。
食事調査システムの開発と実用化へ向けた大規模疫学研究への応用可能性の検討
-回答した対象者の特徴と実用性の評価-
国内のコホート研究に
参加している方*1
21,537名
無作為抽出*2
参加調査を依頼
5,013名
対象者自身で
ウェブ食事調査と
電話調査を選択
参加対象者
975名
(回答率:4.5%)
参加同意
回答
*1 日本国内で実施されている複数のコホート研究の一部対象者を母集団としています。
*2 先行研究より得られた回答率が8%、調査参加の受託率70%得られると仮定して無作為、又は地域の悉皆調査から抽出したもの、抽出方法は各コホート研究によって異なります。
わあ!
沢山の方に食事調査システムを使用してもらったんだね!
目標としていた回答率には及ばなかったけど、回答した対象者の性別、年齢や体格(BMI)は母集団の結果と大きな差はなかったよ。
結果は参加してくれた方がどちらの調査方法を選んだのか、性別・年齢で分けた結果だよ。
結果からわかること
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男性は自身で入力するウェブ調査、女性は調査員が代理で入力する電話調査を選択する割合が多い
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年齢が高い方ほど電話調査を選択する傾向がある
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回答には30分程度かかる
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年齢が高い方ほどウェブ調査の回答時間が長くなる
年齢や性別によって調査方法の選択の違いや回答にかかる時間が違ったんだね!
4.妥当性を調べよう
~ウェブ食事調査システムを使った摂取量推定の妥当性検証~
食事調査システムの開発と実用性は確認できたので、次のステップの検討を行うよ。
摂取量推定する方法の確からしさを検証することが必要だね!
妥当性研究
推定した摂取量がどの程度正確なのかは不明
エネルギーと各栄養素
摂取量
推定
食事調査システム
あ!それは妥当性研究だね。
この研究ではどうやって妥当性を検証するの?
その通り!
様々な食事調査方法を使って比較し、多角的に検討するよ。
妥当性を検討した研究
研究 01
AWARDJPからの推定値 VS 生体指標(Biomarker)からの推定値
(日本人中高年男女約50名)
どちらも
実施
比較
ウェブ食事調査と電話調査
どちらも実施してもらう
食事調査システムから算出した栄養素量等と
生体指標(血液・DLW・24時間蓄尿)からの測定値を比較
*本研究は学振科研基盤(B)の助成で行われ、奈良女子大学・東京農業大学・国立がんセンター・愛媛大学大学院との共同研究で実施されています。
・二重標識水を活用した料理データベースICT食事調査システムの精度の検討(研究代表者 石原淳子 科研費番号18H03199、2018~2021年度)
この研究は尿や血液を用いて摂取量を評価する生体指標(バイオマーカー)で妥当性を検証する研究だよ。
共同研究*で神奈川県と愛媛県を中心に約50名の対象者さんを募集して調査中だよ。
研究 02
AWARDJP(Web24HR)からの推定値 VS 秤量法(DR)からの推定値
(日本人一般成人男女約200名)
どちらか
選択
比較
対象者自身でウェブ食事調査か
電話調査かを選択
食事調査システムから算出した栄養素量等と秤量食事記録法(比較基準となる調査方法)から算出した栄養素量等を比較
*東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)との共同研究を麻布大学、奈良女子大学、仙台白百合女子大学、カゴメ株式会社で実施しています。
・一般成人を対照とした食物摂取頻度調査票および24時間思い出しWeb食事調査の妥当性・再現性の検証(2019~2021年度)
日本の栄養調査(国民健康栄養調査)でも用いられている食事調査方法である秤量記録法と比較とするんだね!
共同研究*で宮城県を中心に約200名の対象者さんを募集して、現在調査中だよ!
皆さんにお知らせするまで楽しみにしててね!!
ところで、血液や尿で何の栄養素が評価できるの?
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二重標識水(DLW)法
評価できる栄養素:エネルギー
エネルギー消費量を測定する方法、水素(O)と酸素(H)の安定同位体を用いて尿などからの排泄量から推定する。現時点で日常生活におけるエネルギー消費量の測定方法のうち最も正確であるとされている。
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24時間蓄尿
評価できる栄養素:たんぱく質・ナトリウム(食塩相当量)
1日の尿中排泄量から推定する方法。たんぱく質は尿中窒素、食塩相当量は尿中ナトリウム量を用いる
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血液(血清・血漿・赤血球)
評価できる栄養素:脂質、ビタミン類
血液中に含まれる物質を測定する方法、消化吸収の影響を受けるため、摂取量を反映しているかまでは不明な栄養素が多い
体重や体組成に変化がなければ、エネルギー摂取量はエネルギー消費量に等しくなるよ。
摂取量の代理指標としてはDLW法やたんぱく質やナトリウムの尿中排泄量はある程度正確な推定が可能として注目されているけど、血液は栄養素によっては様々な要因を受ける可能性があるので、比較する際は解釈に注意が必要そうだね。
血液は相対的な指標なんだね!
それで、Awardjpから算出された摂取量の妥当性結果はどうだったの??
実は、この研究は現在調査中なんだ。
研究室メンバーで食事調査関連実務を遂行中だよ。
皆さんにお知らせするまで楽しみにしててね!!